そこのみにて光輝く大
出典:http://eiga.com/movie/78908/photo/

愛を捨てた男と、愛を諦めた女が惹かれ合う夏

今、絶大な人気を誇る俳優、綾野剛が脚本を3行読んだだけで出演を決めた作品『そこのみにて光輝く』。

北海道函館市の夏を舞台に綴られる、男女の愛を描いた物語。

仕事を辞め、何もせず生活していた達夫(綾野剛)は、
パチンコ屋で、気が荒いものの、どこか憎めない、ひとなつっこい性格の拓児(菅田将暉)と出会う。

拓児の住むバラックには寝たきりの父親、かいがいしく世話をする母親、そして姉の千夏(池脇千鶴)がいた。
達夫と千夏は互いに想い合うようになるが…

このような物語が、函館の美しい景色を背に、静かに進んでいく。

 

綾野剛のリアルな演技から目が離せない

主演を務める綾野剛は、達夫を演じるにあたり、様々な工夫をしている。
お酒は“達夫として生きる”ための安定剤であり、達夫は健康的な顔では表現しきれないため、ロケ地の函館では毎晩お酒を飲んでいたとのこと。

また、発声方法も工夫していて、あまり人とコミュニケーションを取ってこなかった達夫らしく、“とつとつとした”感じで喋るようにしていたそうだ。

このような徹底した役作りが、よりリアルな演技に繋がっているのだろう。

そんな綾野剛が、ここまで演じたことがないというのが、達夫と千夏が心からお互いを求め合うラブシーン。

そのシーンについて、

「みっともないものではなくて、動物的なものでもなくて、
海外作品にありがちな、あえぎ声がうるさいものでもなくて。
昆虫の交尾みたいに静かに愛を育んでいく、聖域みたいな性的描写にしたかった。
静かに粛々と、けれど時間をかけて愛し合い、
相手の全部を自分の中に入れてしまうような、お互いの愛を表現したいと思った」

と語っている。思わず息を飲んで見入ってしまうこのシーンは必見だ。

 

絶望の中にある光

この映画は、綾野剛だけでなく、池脇千鶴、菅田将暉など、俳優陣の演技がとにかくすごい。
表情だけで感情がひしひしと伝わってきて、言葉のないシーンでも涙が出てきそうになるほどだ。

どうすることもできない自分、どうすることもできない人生に嫌気がさし、堕ちるところまで堕ちる。
そんな絶望の底はどんな景色なのだろう。
そして、そこから見える微かな光はどう感じるのだろう。

自分には到底わからない。

暗闇の映画館から出て、現実に戻った時、街の明るさや、自分が生きている豊かな生活が鬱陶しく思えてしまうほど、作品の世界に引き込まれる。

この映画を観て、絶望に浸ってみるのもいいかもしれない。

 

注目の、呉 美保監督

『そこのみにて光輝く』を手掛けた、呉 美保(お みぽ)監督は、
・モントリオール世界映画祭 最優秀監督賞
・キネマ旬報ベスト・テン 監督賞
・毎日映画コンクール 監督賞
など、これだけにとどまらず、数々の監督賞を受賞している注目の監督だ。
2015年6月には4作目となる長編映画『きみはいい子』が公開される。この作品も見逃せない。

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よしの

音楽 時々 映画の日々。 某音楽大学に通いながら、趣味で映画を観てゆるーく生きています