あなたはこの映画を観て衝撃を受けるだろう。鬼才・園子温監督『紀子の食卓』
出典:http://movie.walkerplus.com/mv35756/
家族をテーマにした今までにない衝撃的作品
“園子温”この人物を知っているだろうか。
日本の映画界の常識をぶっ壊し、異彩を放ち続けている映画監督だ。最近だと『TOKYO TRIBE』や、先日公開された『新宿スワン』の監督をしている。
しかし、私がお勧めしたい映画はそれらではない!
原作を元にしたものではなく、園子温自らがストーリーを考え、脚本を書いたオリジナル映画こそが、彼の本当に観るべき作品だ。
そのうちの1つが、今や日本人の誰もが知る女優となった“吉高由里子”の映画デビュー作でもある『紀子の食卓』だ。
〈あらすじ〉
家族との関係や、自身の現状に違和感を抱いていた主人公の女子高生、紀子(吹石一恵)は、“廃墟ドットコム”というインターネットのサイトにのめり込み、東京へ家出する。
そして、サイトの管理人であるクミコ(つぐみ)に会い、クミコが働いているレンタル家族の一員となる。
やがて紀子の後を追い、妹のユカ(吉高由里子)も家出する。
その後娘2人が出て行ってしまったショックにより母が自殺し、残された父(光石研)は娘たちの消息を追い始める。
園子温の手によって“女優・吉高由里子”が誕生する
『紀子の食卓』の配役を決めるオーディションに遅刻してきた人物がいた。
それが吉高由里子だ。当時彼女は全くの無名であった。
園子温がオーディションで何気なく彼女に「ビートルズは何人か」と質問すると、彼女は「5人」と答えた。
ビートルズは4人であるということを伝えると、ぺろっと舌を出し「間違えて自分も入れちゃった」と言ったそうだ。
そんなやり取りからプロデューサー達は、こんな馬鹿な子はやめた方がいい、と反対であったが、園子温はユカ役は彼女にする、と譲らなかった。
撮影近くになり、台本の読み合わせをすると彼女は本読みも物凄く下手で、この子を選んでしまったことは間違いだったかもしれない、と思いかけたそうだ。
『紀子の食卓』DVDのメイキング映像に、吉高由里子が同じシーンを何度もやり直しさせられる映像が入っている。
園子温はこうして無名の俳優を育てていく。
吉高由里子だけでなく、今、映画に引っ張りだこの染谷将太・二階堂ふみ・満島ひかりもそのうちの1人だ。
彼はキャストで勝負せず、作品で勝負するのだ。
あなたは、あなたの関係者ですか?
「あなたは、あなたの関係者ですか?」
この言葉は映画の中に出てくるセリフだ。他にも
「とっても大きな気持ちを、小さな心のコップに注ぐと溢れ出してしまうの。それが涙なのよ」
といったセリフなど、園子温の映画はセリフが詩的で美しい。そのまま切り取って壁に貼りたくなるような言葉で溢れている。
というのも、かつて彼は詩人としても活動し、素人時代に自らがつくった詩が新聞に載ることもあったそうだ。
彼は“表現者”としての才能がバツグンにあるのだ!
セリフだけでなく、映画の空気感も独特だ。現実に近いようで遠い。現実とは遠いようで近い。どこか奇妙で魅力的で…
いつの間にか作品の世界に引き込まれていく。
実体験が妙なリアルさを引き出す
映画では主人公の紀子と、妹のユカが田舎から東京に家出する。
園子温自身もかつて出身地である愛知県豊川市から東京へギタ一1本だけを持って家出したことがあったそうだ。
そして、東京の駅で座っていると、女の人にホテルに誘われる。
ホテルに着いて行き、そこで女の人と一緒に死ぬか、女の人の夫のフリをするかという選択を迫られる。
死にたくなかった園子温は女の人の夫のフリをすることに決め、彼女の実家へ行き、しばらくの間彼女と、彼女の母親と3人で暮らしたそうだ。
この実体験からレンタル家族の案が浮かび、『紀子の食卓』が生まれた。
この映画は、“自分とは何だろう” “家族とは何だろう”などと、ごく当たり前に存在しているものの意味を考えさせられる。
6月27日には園子温が長年あたためてきた完全オリジナル作品『ラブ&ピース』が公開される。
園子温の集大成とも言われているこの作品。絶対に見逃すな…!
参考:エッセイ『非道に生きる』 園子温著
よしの
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